日々の気づき/ブログ
圧電デバイスからパワー半導体までを支える材料「AlN」
窒化アルミニウム、AlN。
学生の頃、磁性材料の研究で、磁性膜を配向させるための下地膜としてAlNをスパッタしていました。
当時は「Alターゲットを窒素雰囲気でスパッタして作る下地材料」くらいの認識でした。
改めて物性を見ると、なかなか面白い材料です。
ざっくり言えば、電気は流さないのに、熱はよく流す。しかも圧電性がある。という面白い材料です。
・GaNの下地
最近GaN関係を見ていると、AlNを下地やバッファとしてよく目にします。
実はこれは古くから重要な技術で、サファイアとGaNの間にAlNバッファ層を入れることでGaNの結晶性を改善できます。
現在でもGaN系LED、パワーデバイス、高周波デバイスなどで重要な材料です。
学生時代に磁性膜の「下地」として使っていたAlNが、別の世界でも重要な下地材料になっていたわけです。
・圧電材料
圧電材料としては地味だと思っていました。
その後PZTを研究するようになってからは、正直AlNにはあまり興味がありませんでした。
PZTという圧電材料の強者がいたからです。AlNの圧電定数はPZTに比べるとかなり小さいです。
ところが、センサでは圧電定数だけでは決まりません。
AlNは誘電率が低く、高い音速、高Q、低損失といった特徴があります。そのため高周波用途ではむしろ強みになります。
そのAlN薄膜の代表用途が、FBAR(薄膜バルク音響共振器:Film Bulk Acoustic Resonator)です。
圧電薄膜を電極で挟み、GHz帯で振動させます。この共振を利用してスマートフォンなどの高周波フィルタを作ります。
さらにScAlNへ
そしてAlNをさらに面白くしたのが、ScAlN(Sc添加AlN)です。
AlNにScを添加すると圧電性が大きく向上し、AlNの数倍の圧電応答が得られます。
報告例ではAlNの (d33) 約5.5 pC/Nに対し、ScAlNでは30 pC/N前後まで向上しています。
これで鉛を使わない圧電材料として大きく用途が広がりました。
薄膜AlN系の用途を並べると、
GaN/AlGaNの下地
FBAR/BAWなど高周波フィルタ
MEMSマイク/振動センサ
PMUTなど超音波デバイス
エネルギーハーベスティング
ScAlNによる高性能圧電/強誘電デバイス
など、かなり広がっています。
個人的には、熱伝導率が高いということでもっと新しい用途があるのではと思っています。
今の半導体は熱を逃がすのが大きな課題になっていますからね。
材料の価値は、一つの物性値や用途だけでは決まらないですね。
用途や周辺技術が変われば、昔は脇役だった材料が主役になる。
面白い材料なので、次の主役となる分野を新規テーマとして進めるのはどうでしうか?
AI時代、扇風機がMEMSチップになった!
AIの進化で、CPU、GPU、SSDなどの発熱が大きな課題になっています。発熱が増えると、機器は自分を守るために性能を落とします。いわゆる熱による性能制限です。これまでは、ファン、ヒートシンク、ヒートパイプ、ベイパーチャンバーなどで熱を外部に逃がしてきました。しかし、薄型PC、スマートフォン、XRグラス、エッジAI機器では、さらなる「薄い・静か・小さい」冷却が求められます。
そこで注目されているのが、MEMSを使って空気を動かす技術です。
AirJet Mini G2は、7.5Wの熱を除去し、21dBAの静音性をうたっています。添付資料でも、AirJetはMEMS超音波アクチュエータを使った熱対策技術として説明されています。
またxMEMS社も、µCoolingという「fan-on-a-chip」を発表しています。
1mm厚のソリッドステート冷却チップで、エッジAI機器や低消費電力のデータセンター部品向けと説明されています。
xMEMS |マイクロ冷却 |エッジAIデバイスおよびAIデータセンター
面白いのは、これらは単にモーターで羽根を回すのではなく、圧電MEMSの微細な振動で空気を動かし、熱源の近くに局所的な風を送ります。
イメージとしては扇風機というより団扇が近いと思います。MEMSの中の人が団扇でパタパタしている感じです。
MEMSはこれまで、加速度センサー、ジャイロ、マイク、インクジェットヘッドなとして広がってきました。今度は「熱を逃がすために動く部品」として、期待されています。
AIの性能競争は、半導体だけでなく、熱設計の競争でもあります。熱のマネジメントをどうするかというのは頭の痛い問題です。このデバイスはその解決の一つの方法だと思います。そしてMEMS、圧電薄膜、微細加工を持つ企業にとって、冷却は新しい出口になるかもしれません。
新しいデバイスが出てくる予感がします!
世界を驚かせたxMEMSの「オールシリコン」マイクロ冷却チップ
世界を驚かせたxMEMSの「オールシリコン」マイクロ冷却チップ
半導体の高性能化が進む中、課題のひとつが熱対策です。CPUやGPU、メモリ、バッテリーなどの発熱は、製品性能や寿命に直結します。そんな中、米国のxMEMS Technologiesが開発したXMC-2400 μCooling chipは、世界中のMEMS技術者を驚かせました。
このチップは、もともとxMEMSが培ってきた圧電MEMS技術をマイクロスピーカーから転用したもの。半導体パッケージ上に載せられる世界初のオールシリコン製ファン・オン・チップです。厚さはわずか1mm、超音波帯域で駆動するため、耳に聞こえる騒音が発生しません。
技術の仕組み
圧電MEMS膜を超音波帯域で振動させ、高周波の圧力変動を発生。この変動をマイクロバルブで同期制御し、非対称のパルス気流を作ります。従来のような機械ベアリングがないため
・超薄型
・低振動
・静音
といった特長を実現しています。
応用の可能性
このμCooling chipは、特に狭いスペースでの冷却が求められる半導体パッケージに最適です。スライドの例では、CPU/GPUやメモリ、バッテリーの熱源上に直接配置し、効率的に放熱できることが示されています。従来の冷却ファンでは難しかった、薄型デバイスや静音が求められる機器への応用が広がりそうです。
まとめ
xMEMSのXMC-2400は、冷却技術におけるパラダイムシフトを予感させます。超音波駆動の無接触ファンは、従来のメカニカル構造の常識を覆し、電子機器の設計自由度を大きく広げる可能性を秘めています。サンプル出荷も始まっており、近い将来、私たちが手にするデバイスにもこの技術が搭載される日が来るかもしれません。
MEMS技術者の皆さん、一緒にこれを超えるようなMEMSを作りましょう!
MEMS技術の新規事業応用:小型化、高感度、低消費電力の鍵要素
圧電MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)は、微細な電子機械システムの一種で、圧電効果を利用して機械的な変位を電気信号に変換し、逆に電気信号を機械的な変位に変換する技術です。今回は、圧電MEMSの主な特徴と応用について説明します。
1. MEMS技術の特徴
革新的な小型化: MEMS技術は微細なサイズで製造可能で、これは新規事業において製品やシステムのコンパクト化に大いに役立ちます。小型のデバイスは、携帯性や省スペースの要件を満たし、市場での競争力を高めるのに寄与します。一概には言えませんが、小さくなればなるほど低コスト化するという半導体素子と同じような効果もあります。

低消費電力と長寿命: MEMSデバイスは低消費電力で動作し、長寿命を持つため、新規事業がエネルギー効率を重視する場合や信頼性が不可欠な場合に適しています。これは、バッテリー駆動の製品や無停止動作を要求されるアプリケーションに適しています。
2. MEMS技術の新規事業への応用
センサー技術の革新: 新規事業はMEMSセンサー技術を活用して、市場での競争力を向上させることができます。高感度のMEMSセンサーは、新しい製品やサービスの開発においてデータ収集と解析の品質を向上させ、顧客満足度を高めます。構造設計によっては新たなセンサとして使える可能性があり応用は広いと考えます。
製品のミニチュア化: MEMS技術は、製品やデバイスを小型化するのに役立ちます。これにより、新規事業はコンパクトでポータブルなソリューションを提供します。小型化は低コスト化と高付加価値化を意味し、従来のものと比較して競争力の高いデバイスになる可能性があります。


エネルギーハーベスティング: 新規事業はMEMSデバイスを使用して、外部エネルギーを収集し、エネルギーハーベスティング技術を導入できます。これは、バッテリー寿命の延長や環境に優しいソリューションの提供に役立ちます。実際のところ発電量はまだまだ小さいものの、センサや回路の商品電力が下がってきたため上手く組み合わせることでユニークな商品となる可能性があります。
MEMS技術は新規事業の成功に向けて多くの機会を提供し、競争力を高め、市場での立ち位置を強化する手段として積極的に検討すると良いでしょう。
ご質問等がありましたらお気軽にメールいただければと思います。
振動エネルギーから電力へ:圧電材料を用いた振動発電素子の革新的な開発とその応用
近年、再生可能エネルギー分野で注目を集めているのが、圧電材料を用いた振動発電素子です。この技術は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換するために圧電効果を利用します。圧電材料は、機械的な圧力が加わると電気を発生する特性を持ち、この特性を活用して振動エネルギーを捕捉し、電力に変換するのです。
前回の日記でご紹介した東北大学の桑野先生の会社「仙台スマートマシーンズ」は、このような振動発電素子を開発しています。
仙台スマートマシーンズ株式会社 http://www.ssmcoltd.co.jp/
私自身、桑野先生とは共同で研究で何年間かは一緒にやっていました。
この技術の最大の特長は、環境からの微小な振動を利用できる点にあります。例えば、交通機関の振動や産業機械の動作による振動など、日常的に発生するエネルギーを捉え、利用することが可能です。
しかし、振動のような微小なエネルギーを利用して発電するため、大規模な電力の生成は期待できません。多くの方から「スマートフォンの充電は可能か?」という質問を受けますが、かなりの振動と時間が必要となるため、現実的ではありません。それでも、近年のセンサ技術の進歩により、低消費電力のセンサが多く開発されており、Bluetoothも低消費電力化が進んでいます。
桑野先生のウェブサイトでは、自動車の振動を利用してセンシングする例などが紹介されていますが、用途は多岐にわたります。現在は大量生産されていないためコストは高いですが、適切な用途が見つかれば、実用化が進むと考えられます。
良い用途が思いついたら、ぜひビジネス展開を検討していただきたいです。何かご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。
図は仙台スマートマシーンズHPより





